アジア太平洋地域の平和と安定のために
「歴史は繰り返す」の最初の発言者については諸説があるようですが、18世紀末に活躍した英国の政治家で、保守主義の父といわれるエドマンド・バークは、「歴史から学ばぬ者は、歴史を繰り返す」と述べています。
米国のトランプ大統領の誕生以来、特に顕著になった、世界を覆っている「自国第一主義」は保護主義の傾向を強め、不健全な愛国主義、差別的民族主義を生む温床となる可能性をはらんでいます。誰もがそんなことは起こらない、と考えていたことが現実に起こることは、歴史が示すところであります。20世紀に世界が経験した2度にわたる世界大戦の愚行を、再び繰り返すようなことがあってはいけません。バークの言葉をもう一度噛み締めるべきでしょう。
日本は幸いなことに戦後70数年にわたり、戦争のない平和な時代を送ってきました。しかし、世界の各地、シリア、イラク、アフガニスタンなどの中東地域をはじめ、アフリカ、ウクライナなどでは紛争は起き解決の手立てもなく続いています。中東における宗教対立、そしてその産物であるイスラム過激派による無差別テロが世界、とりわけヨーロッパの国々で頻発し、市民生活を脅かしているのは周知の通りです。
また北東アジアでは北朝鮮の核開発、ミサイル開発が米国との間に一触即発の緊張状態を生んでいます。万が一両国間で戦闘の火蓋が切って落とされれば、日本が無関係でいられるわけがありません。さらに、南シナ海や東シナ海では中国の覇権主義が、権利を主張する各国との間に深刻な紛争の種を生み出しています。
悲惨な歴史が繰り返すことのないよう、いかにして平和と繁栄による世界的新秩序を確立していくか、私たちには大きな難題が投げかけられています。
歴史的に見て、世界中で誕生している文明は多様、多元ですが、その存続の基本は、人は人に対して寛容でなければならないということです。世界各地の人々は、その固有の伝統の上に、他の地域の人々の真摯な思索や倫理体系、独自の美意識についての理解を深める。そして、その共通点によっては連帯感を強め、またその相違点では、相互に刺激し、吸収し、相補完しつつ互いに切磋琢磨していかなければなりません。
新たな次元へ向けて、世界の産業文明や精神文化に活力を付与していくためには、異種文化間で相互が刺激し、吸収し合い、相互の創造的発展が図られる必要があります。
このようななか、東アジアではアセアン諸国を中心に共同体建設が唱えられ、その具体的推進について各国は真摯に研究し、実践の方策を検討してきました。これについては、環太平洋の国々の協力が不可欠であり、この実現へ向けて相互に緊密に話し合い、具体的協力の方途を探ることが私たちに課せられた大きな責任であると考えています。
元来、東アジア・西太平洋の地域には調和の哲学に深く根ざした、文化の多元的共存の精神と穏やかな民族性が存在し、生活の知恵として節制と妥協を持っています。反覇権、反大国主義の考えが普遍化していて、本来、平和共存の哲学が横溢している地帯でもあります。この地域では各国が独自性を持ち、各々の国情に適合した方法で市場経済を発展させており、これらの独自性が大きな強みと言えるでしょう。
私たちは常に同じ地球に住む人間としての自覚を持ち、各国、各地域と連携しつつ世界の平和と安定のために謙虚に奉仕し貢献すべきです。
1993年、中曽根康弘元総理により、アジア太平洋地域各国の国会議員の意見交換、信頼醸成を目的としてアジア太平洋議員フォーラム(APPF)が設立されました。このフォーラムが、今後もこの地域の多国間による「政治的ドーム」建設の中心的基盤になること、またそれを補佐するアジア太平洋ネットワークフォーラム(APNF)の役割がますます広がることを確信しています。